ぽかぽか、バス。

「お気をつけて」
この一言のおかげで、ボクの今日は、心もぽかぽか温かくなりました。
今日はぽかぽかな陽気でした。「せっかくだから外に出よう」という気持ちを後押ししてくれるそんな天気でした。財布と携帯をポケットに突っ込み、スニーカーをとんとんっと馴染ませ、外へと飛び出しました。
ボクの目的地は大学裏の堤防です。その堤防はちょうど山と向かい合う形になっていて、草の上に寝転がると自然に抱かれている感覚を味わうことができます。
しかし、そこまでの道のりは片道90分もかかります。ここがなかなかボクにとってはしんどいです。電車とバスを使います。電車はまだ良いのですが、バスはなんとなく苦手なのです。なぜかといえば、たまに不機嫌な運転手さんに出会ってしまうからです。バスを使い慣れていないお客さんにイライラしている運転手さんを見ると、こっちまで怒られた気分になってしまい、心がぎゅっと縮こまる思いをします。
今日はどんな運転手さんだろう、とドキドキしながら様子を伺っていました。すると、今日の運転手さんはとてもおだやかな人でした。「最近は忘れ物が多いですから、降りる際はお気をつけください」「ここから少し揺れますね」など、ぽかぽかあったかくなるような心づかいをなさる人でした。ボクはそこで安心してしまい、つい寝てしまいました。
「お客さん、お客さん」
あれ、と顔を上げると運転手さんがボクを揺すっているところでした。ボクは安心し過ぎて終点まで寝てしまっていたのです。すみません、と恥ずかしくて小さな声で返すと、運転手さんはほっとして、笑顔で「大丈夫ですよ」と返してくれました。
幸い、ボクの目的のバス停は終点だったので不都合はなかったのですが、よりによって素敵な運転手さんのときに迷惑をかけてしまったことが残念で少し落ち込んでしまいました。
バスを降りるとき、せめてお礼を言おう、と勇気を出して運転手さんの顔を自分から見ました。
「ありがとうございました」
「いえいえ、お気をつけて」
やっぱり運転手さんはにっこり笑って、でも、さらに帽子をとって礼までしてくださいました。ボクはこの運転手さんの誇り高い姿を心に刻みました。
「お気をつけて」
バスを降りたあとも、堤防で寝転がって空を見上げているときも、帰り掛けに山を振り返ったときも、あの運転手さんの言葉が、ずっとボクの心をぽかぽか温めてくれていました。
帰りは日が暮れて少し肌寒かったけれど、今日一日、ボクの心はぽかぽかな春らしい陽気のままでした。

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